デジタル化の本質について、時代の流れも振り返りながら確認しておきましょう。本記事では、「3段階のデジタル化」について解説しながら、DX の意味、現在の日本における現状について共有しておきたいと思います。
デジタル化は、3つの段階(フェーズ)に分けて考えることができます。ここでは、この3段階について、以下の3つの視点で見ていきます。
1.時代の変遷
2.データ基盤と業務構造
3.社会との関係
まず、時代の変遷を見ると、だいたい以下のように1990年頃からデジタイズ、2000年からデジタライズ、2010年ぐらいからDX、デジタル・トランスフォーメーションと考えることが出来ます。1990年代から30年にわたり、劇的な進化をしてきました。
フェーズ1:Digitize : デジタイズ
まず、フェーズ1は、アナログを置き換えただけの単なるデジタル化です。文書をワープロソフトで作成していれば、一応デジタル化はされています。しかし、データ化するというよりも、きれいに印刷するためのデジタル化です。いわば、清書するための作業を効率化するものと言えます。
エクセルを使っていても、印刷することに主眼が置かれているので、セルの幅や高さを利用してレイアウトしてしまう、いわゆるエクセル方眼紙のようなものがはびこってしまいます。
会議資料なども印刷することを前提にしていますので、デジタル化で得られる恩恵はごくわずかです。いわば、旧来の仕事のやり方はそのままにしておいて、一部の工程がデジタル化されているだけという段階がフェーズ1です。
“印刷するためのデジタル化”
この段階ではCADソフトで図面を描いていても、2次元で線を描いているだけです。機械設計の例で言えば、設計者がCADで図面を描いていても、製造工程では出力された紙の図面を見て、オペレーターが工作機械に数値を入力し直しています。
1990年代のデジタル化はこんな感じでした。WORDを使っています。エクセル使ってます。2次元CADを使ってます。で、一応、デジタル化と言えた時代です。それでも、書類の一部を修正して使うことが出来たり、何度も使うデータはコピー&ペーストして再利用するなど、デジタル化の恩恵もそれなりにありました。
しかし、旧来の仕事の手順を変えずに、一部のみがデジタル化されていると、かえって非効率な面もあります。お役所や金融機関で良くあるパターンが、デジタル化もするけど、あくまでも印刷してハンコついた紙が原本というやつです。
印刷してハンコついて、スキャンしてPDFにして、PDFも紙も保管して管理する必要があるので、かえって手間が増えてしまいます。日本ではこういう本末転倒なデジタル化が、とても多いのです。
エクセルで発注書作っていても、印刷してハンコついてFAXして、受注した側も届いたFAXから受注システムに手入力する。こういう馬鹿げた工程が、日本中の至るところでいまだに行われています。
かえって新興国の方が、旧来の手順が確立されていなかった分、デジタル化が進んでいるという、皮肉な傾向も見てとれます。日本企業は、昭和の高度経済成長期があまりにうまく行ったものですから、昭和のやり方をいまだに捨てられない組織が多いようです。
フェーズ2:Digitalize:デジタライズ
2000年代に入ると、フェーズ2、デジタライズに入ります。この段階では、単にアナログをデジタルに置き換えるだけでなく、デジタルにしか出来ないことが次々に生みだされていきます。
例えば、グラフィックソフトで制作したデジタルデータを、オンラインで印刷所に入稿して、そのまま印刷物を印刷することが出来るようになります。いまでは当たり前になりましたが、ネットプリントのサービスはデジタル技術の活用で生まれたビジネスモデルです。
2000年代は、IT の活用で新たなビジネスモデルが次々に考えだされていきました。
パソコンメーカーのデルコンピュータはデジタル化したサプライチェーンを構築することで、メーカー直販というビジネスモデルを確立しました。
顧客が自分自身で細かく仕様を選択することが出来るオンライン販売のシステム、いわゆる BTO 、Built to ORDER 、ATO、Assemble to ORDER 、受注組立生産のシステムを確立することで急速に成長しました。
デルが台頭する前のパソコン販売の世界は、仕様を特定した見込み生産や在庫方式で流通小売経由で販売されていました。デルコンピュータは、メーカー直販によるビジネスモデルを確立して、物流と小売に抜本的な変革をもたらしました。
こうしたビジネスモデルは、生産側と販売側の両方からデジタル化してつなげたことで初めて実現できたわけです。
Amazon や楽天のような EC サイトでも、わたしたちから見えている部分は Web サイトでしかありませんが、その裏側、バックエンドではデジタル技術が高度に活用されています。Amazon の物流倉庫では、デジタル技術で自動制御された台車が走り回ることで物流体制が構築されているわけです。
こういったデジタライズの動きが盛んになったのが 2000年代です。ビジネスモデルという言葉がメディアを騒がせていた時代でもあり、インターネットとデジタル技術をフルに活用して、ビジネスを再構築する動きが広がりました。
“デジタルの利点を活かしたビジネス”
そして、デジタライズの進化も深まっていきます。デジタライズの考え方について、製造業の事例からご紹介します。
製造業におけるデジタライズの鍵を握るのは3次元CADです。工作機械へデータをダイレクトに送信して製造加工することも可能になります。
エンウィットでも、3次元CADで設計した部品を切削加工機、CNC や3Dプリンタで制作しています。アルミやABS樹脂による治具制作、電子基板の製造など、多様なものづくりの工程において、外部の加工業者さんとCADのデータを交換することで、大幅な工数削減、納期短縮を実現しています。
Proto Labsというサービスでは、3次元CADのデータをオンラインで送信すると、加工上の解析がクラウド上で即座に行われて1〜2時間で見積が表示されます。そのまま、オンラインで決済すれば、切削加工品であれば最短1営業日で出荷されます。射出成形品でも、最短10日間から製造が可能です。
このように生産から販売まで、川上から川下までをデジタル技術でつなぐことで、従来では考えられなかったような納期と金額、利便性で、ビジネスが展開されるようになったわけです。デジタライズによって次々と、ビジネスモデルの変革が起こりました。
パソコンのCADソフトで、機械部品のアッセンブリ、構造的干渉のチェック、熱解析、振動解析など、高度なコンピューターシミュレーションが可能になりました。建築の世界でも複雑な構造の計算が可能になり、従来は考えられなかったような建築物が登場します。そして、デジタルデータを施工管理にまで活用するBIM=Building Information Modelingへと進化発展していきます。
こうしたデジタル技術によるビジネスの大変革が、あらゆる分野で起きていて、デジタル・トランスフォーメーションへと進化していきます。
フェーズ3:DX
デジタル化のフェーズ3がデジタル・トランスフォーメーションです。フェーズ2のデジタライズがさらに進化し、デジタル技術が業界全体やビジネス構造、ひいては社会全体のインフラとなっていきます。すべてがデジタル化され、デジタル技術が社会やビジネスの前提条件、プラットフォームとなっていきます。デジタル化の進化が、一つの会社だけでなく、業界の構造、市場全体、そして、社会の根幹、国家にさえ影響を及ぼすようになってきました。
“デジタル技術がプラットホームに”
すべてがデジタル化することを想定して自らのビジネスを変容させていく、トランスフォームしていくことがデジタル・トランスフォーメーションであると言えます。
ここで、DX の成功事例、先進的事例を紹介しても良いのですが、本書ではあえて、取りあげません。なぜなら先進的事例を見ていると、AI を活用して画期的な新規事業を展開、みたいな派手な事例に翻弄されてしまいがちです。既存のビジネスを営む中小企業にとっては、あまりに浮世離れした DX に飛びつくことは、大けがのもとでもあります。
基本的には DX といっても、デジタル技術によるビジネスモデルの革新であり、フェーズ2の延長線上にあります。中小企業における DX の取り組み方としては、あまり大上段に構えて、AI だ IoT だ、新規事業だといって、現場のニーズとかけはなれた課題を設定しない方が良いと思います。
あくまでも、デジタイズ、デジタライズ、業務改革の積み上げを地道にやっていくことをお勧めします。
そして地に足のついたDXを進めてくために重要なのはツールではなく、人材です。DX の成功と失敗をわける鍵は、人の意識、マインドセットにあります。組織がデジタル化に取り組む上で重要なマインドセット、意識について考えておきましょう。
DXへの取り組みでよくあるパターンが、AI や DX の成功事例をメディアで知って、そこには魔法みたいなツールやサービスがあって、そいつをわが社も導入しなきゃみたいな発想になってしまうことです。しかし、こうした抽象的な概念だけで、うちでもDXやれ、デジタルで何かやれ、といったかけ声が先行することには気を付けた方が良いと思います。
実務を担当する人たちがハラオチしないまま、デジタル化しても、絶対にうまくいきません。フェーズ1、フェーズ2の基盤も出来ていない状態で、ITベンダーに言われるがまま、AI だ IoT だ、DX 対応製品だ、みたいなものを導入して上に乗っけても基盤がぐらついていては、失敗する可能性が高くなります。
あくまでも、自社のビジネス、自社の顧客、自社の生産といった現場のニーズや課題を解決すること、改善することに集中することをお勧めします。課題解決、ソリューションを考えていくことが最優先です。
本質的な課題解決に取り組んでいけば、結果として、デジタル技術に行き当たるはずです。
そこを突破口にして、デジタル化を推進する、事業を展開するという取り組み方をお勧めします。組織としては、あくまでも業務改善の延長でデジタル化を推進するという意識、マインドセットを共有することが大切です。
こうした組織で共有しておきたいマインドセットについては、「資産となるデータとシステム」、「構造化、最適化、統合化、自動化」、「デジタル版5S活動とデータ連携」の項目で詳しく解説します。
一方で、あまりに現状の仕事に慣れてしまっている組織は、古い仕事のやり方を問題だとも課題だとも思っていない場合もあります。旗振れども踊らず、業務改革の意識も薄く、デジタル化への興味も危機感もなし・・・、という現場も多いことかと思います。
実際、デジタル化のフェーズ1で止まっているところが多いので、そうした現場を刺激する必要はあります。エクセルの集計データをオンラインで共有していても、デジタル化としてはフェーズ1に過ぎません。
しかし、フェーズ1のデジタル化では、もはや生産性の向上は見込めません。ハンコに象徴されるようなアナログのワークフローや考え方をそのままデジタルの世界に持ち込むと、かえって非効率な結果になりかねません。
みなさんの組織では大丈夫でしょうか。
このあたりの解決策は本ブログでもご紹介していきます。ポイントは、経営者から現場の担当者まで、それぞれの状況やニーズに合わせる最適化です。個別最適と全体最適というキーワードで解説します。
いま、みなさんの会社のデジタル化はどの段階でしょうか。
フェーズ1のデジタル化しか出来ていないとすると、これからの10年はビジネスで不利になることが増えていくことが予想されます。ある企業の調査で、毎日行っている集計業務を精査してみたところ、基幹業務ソフトからエクセルに十数回のコピー&ペーストが必要だったそうです。
個人としても、ひたすらコピー&ペーストを繰り返すようなフェーズ1の仕事をしていれば、その価値は低下する一方です。やがて、自動化されるソフトウェアに淘汰されてしまいます。
経営者はもちろんのこと、DX 社会で働く一人一人が、フェーズ2以降にバージョンアップする必要があります。そのためには、IT 、デジタル技術で何が出来るのか、具体的な事例などについて、知っておくことも必要です。
中小企業の現場で役に立ちそうな技術や事例についても紹介していきますので、参考にしてください。