3層のつながりで考えるDX
DX =デジタルトランスフォーメーションは、社会全体をデジタル技術によって再構築しようという動きです。社会の関係性を再構築することで生まれるイノベーションがDXであるとも言えます。
DX時代は、ビジネス上のあらゆる取引がデジタル化され、川上のサプライチェーンから川下の顧客まで、社内と組織外部を含めた全体を見て、全体を最適化する視点が必要です。
今回は、DXを社内外のつながりという視点から考えてみましょう。
個別最適と全体最適
中小企業は、DX にどのような意味を持たせれば良いのでしょうか。まずは、メディアやITベンダーが煽るDX という言葉に惑わされないことが重要です。
いきなり、ベンダーに言われるがまま、DX対応(?)を唱う製品やサービスを導入しようと考えるのが最も愚かな選択です。まず、社内の課題、現場の課題に向き合うことを最優先すべきです。
つまり、個別最適です。具体的な課題を解決する過程で、自然とデジタル技術を活用することになっていくはずです。
一方で、いわゆるタコツボ化、サイロ化した従来通りの縦割り組織文化のままで個別最適にとらわれているだけだと、変化の激しい現代ビジネス社会では顧客や市場の動きも、重要な指標や活動もわからなくなってしまう危険があります。狭い範囲でごちゃごちゃやっているうちに、その組織全体が、顧客、外注先、社会から取り残されてしまいます。
個別最適と同時に全体最適を考えることが重要です。事業というのは、業種や規模にもよりますが、企画、開発、設計、調達、製造、生産、販売促進、マーケティング、営業、顧客サポート、経理、財務、総務、人事、管理、経営と、多様な役割を持った人、組織の集合体です。さらに、各部門ごとに業務があり、最適なシステムがあります。
自社のシステム、ソフト、デバイス、ネットワーク等の状況を俯瞰的に見直す機会を作ることが大切です。
そして、それぞれの業務ごとに対象となる顧客や外注先など、外部の関係先があります。DX という文脈では組織外部を含めた全体像を見てシステムを考える必要もあります。今後は遅れに遅れていた行政手続きのデジタル化も一気に進むことでしょう。
アナログ手続きの象徴とも言えるお役所仕事、行政手続きでさえもデジタル化が進んでいきて、デジタル手続きに対応しないと、仕事を受注出来ないような状況も生まれてきています。
「よくわからない」とか「うちには出来ない」とか言っていられる問題ではなく、少なくともデジタル社会を想定してビジネスを再構築する戦略を持つことは必須と言えるでしょう。
タテとヨコの3層
別の記事「3段階で考えるDX」では、基盤となるデジタル化を積み重ねて高度化していく、いわばタテに三段階の構造としてデジタル化を考えました。
DXの文脈でもう一つの大切なことがヨコの構造です。
社会がどんどんデジタル化されて、ヨコの関係がデジタル化技術によって構築されるようになっています。いまだに、FAXで受発注しているとか、メールが出来ないとか言っていては、デジタル化されたビジネス社会から置いて行かれることは誰もが想像出来ることです。
昭和のビジネススタイルに慣れきった仕事のやり方では、変化が速く、複雑多様化した現代のビジネス社会に適応出来なくなっていきます。
外部の事業者を積極的に活用する視点も必要です。かつて、日本企業の衰退原因の一つに何でも自社でやろうとする自前主義が挙げられることもありました。さらに、デジタル化による水平分業が一気に進む状況にうまく対応出来なかったことも競争力低下の要因となってしまいました。
DXのポイントは、
社内外でデータを交換し、共有すること
とも言えます。
データが価値を生み出す
2000年代以降、デジタルデータが高度化することで、デジタル化による水平分業が進んできました。Proto Labs や Mevie という製造加工サービスは3D CAD というテクノロジーを活用することで、印刷された図面ではなく3Dデータで、全国からオンラインで受注出来る体制を構築したわけです。
ネットプリントの印刷会社も、オンラインで24時間全国から受注出来るのは、版下データとして Adobe の PostScript やPDF というテクノロジーを活用しているからです。
会計、経理で言えば、金融機関ともオンライン接続することで取引明細を自動的に取得出来ます。税理士とも会計ソフトのデータを共有することで大幅に業務効率化が出来るようになります。
“高度なデータ共有で構築される信頼関係”
データ形式とプロトコルが生む信頼関係
DX 時代は、データを高度に共有することでビジネス関係が成立する社会になります。地域や場所、時間的な制限がなくなり、物理的な場と時間を共有することで成り立っていた信頼関係が、デジタル空間のプロトコルによって成立する信頼関係へと変化していきます。
プロトコルというのは、狭義には通信上の手順のことですが、打ち合わせ、仕事の進め方などを含めた総合的な仕事のルールです。アナログ時代は足繁く通うとか、飲み会接待のような営業スタイルで構築されてきた信頼関係が、DX時代はデータとプロトコルによる信頼関係へと変化していきます。
余談ですが、どんなにデジタル化が進んでも仕事は人間が行うものですから、アナログでウェットな部分は残るはずです。デジタル時代のデータとプロトコルはおさえた上で、客商売としてのアナログでウエットな目配りやさじ加減は必要でしょう。
多様なデータ形式
本ブログでは、DX のフェーズを時間軸・タイムラインで見る方法と、デジタル化の活動を積み上げていくピラミッド型で見る方法を紹介しました。今回は、サークルとして見る視点を考えてみましょう。
図のように、中心を自分の会社、組織、個別の業務と見ます。サークルの外側が顧客やサプライヤを含めた外部組織、外部環境です。一つの方向性は、中心でフェーズ1 のデジタイズをきっちりやっておき、フェーズ2 のデジタライズ、DXへと外側へ広げていく動きです。
もう一つは、外側のサークル、つまり業界全体や社会全体の動向、外的要因に対応するために、外から内へと進めていく方法、いわば外圧を利用する方法です。
取引先からCADやPDFデータを受け取って対応出来るようにしないとビジネスが成立しなくなるような業種・業態も出てくるでしょう。外部環境のデジタル化が進んでいけば対応せざるを得なくなります。
あたまごなしにデジタル技術を導入してもうまくいきませんが、戦略的な視点を持ち、全体構造を把握出来ているのであれば、外的要因への対応から入る手法もアリだと思います。
しかし、外部とのデータ交換を確立するには、事業基盤、企業文化としてのデジタル化の基本が出来ていないと、データを正しく扱うことも、ましてやビジネス上の優位性を作り出すことも難しくなってしまいます。
データ形式を把握する
データにはざっと挙げるだけでも以下のように多様な形式があり、それぞれに置けるバージョンやエンコード方式などによって、互換性が規定されています。会社によって、部門によっても、システムによって、異なるデータ形式間で変換が必要になることもあります。
テキストとデータベース
- CSV (Comma-Separated Values)
- JSON (JavaScript Object Notation)
- XML (eXtensible Markup Language)
- SQL (Structured Query Language)
ビジネス文書
- DOCX/DOC (Microsoft Word)
- PDF (Portable Document Format)
- PPTX/PPT (Microsoft PowerPoint)
印刷・グラフィック・画像
- PDF (Portable Document Format)
- AI (Adobe Illustrator)
- SVG (Scalable Vector Graphics)
- PSD (Adobe Photoshop)
- TIFF (Tagged Image File Format)
- PNG (Portable Network Graphics)
- JPG (Joint Photographic Experts Group)
CAD (Computer-Aided Design)・3D
- DWG (Drawing)
- DXF (Drawing Exchange Format)
- Parasolid
- STL (STereoLithography)
- STEP (Standard for the Exchange of Product model data)
- USD (Universal Scene Description)
- VRML (Virtual Reality Modeling Language)
- X3D (Extensible 3D Graphics)
- FBX (Filmbox)
- GLB/GLTF (GL Transmission Format)
- IGS/IGES (Initial Graphics Exchange Specification)
- MAX (3ds Max)
- OBJ (Wavefront Object)
どの形式をマスターとしてデータを蓄積し、システム間、取引先間で交換出来るようにするか。デジタル社会では、データ形式を常に意識しておくことが重要です。
データ、システム、人、価値は密接に関係しています。4つの要素から考えておくことが重要です。以下の記事で解説していますので、参照してください。
DX enGene では、組織でデータを扱う基本的な考え方として、データの整理・整頓・清掃・清潔・仕組み化として、デジタル版5Sとして定義しています。以下の記事をご参照ください。
ものづくりとデータ
一般的なデジタルの特性として、複製が容易なことがあげられます。ソフトウェアの世界では、ウィナーテイクスオール、勝者総取りの世界と言われています。AIの進化により、ますますその傾向を強めていくでしょう。
DX時代は、デジタル化に積極的に対応しつつも、アナログ部分との接点を持つことが重要です。デジタルデータに対応したものづくりの体制を作った上で、アナログ的で物質を扱う業務を組み合わせることで、ソフトウェアだけのサービスにはないビジネス上の競合優位性を確立することが出来るわけです。
こうした 3D CAD や 印刷用のPDFなど、データが生産・製造・制作上のデザインルールを満たしているかどうかは、システムが判定するようになり、デザイン上の規約さえ充足していれば良いことになります。
打ち合わせにおける言語的制約も少なくなりますので、世界中のサプライヤーから案件に応じて選定して、発注することも可能になります。